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仙台高等裁判所 昭和53年(ラ)18号 決定 1978年7月20日

抗告人

谷崎二郎

右代理人

村上守

相手方

福島県信用保証協会

右代表者

高山聰

右代理人

長田弘

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告の趣旨は「原決定を取り消し、相当の裁判を求める」というにある。

本件再競売手続取消決定(以下本件取消決定と略称する)に対する相手方の異議申立の理由は、原決定添付別紙のとおり(ただし原決定四枚目裏一三行目に「善売」とある部分は「競売」と訂正する)であり、抗告人の抗告の理由は別紙のとおりである。

ところで、記録によると次のような事実が認められる。

すなわち、本件競売事件においては、原決定添付物件目録記載の土地および建物(以下本件不動産という)について、昭和四七年三月三日、金八七三万二〇〇〇円を競買代金として抗告人に競落を許す旨の競落許可決定がなされたが、抗告人は、同月三〇日の代金支払期日にその義務を履行しなかつたので、原裁判所は、同年四月一日再競売を命じ、一旦再競売期日を同年五月二六日と指定した。ところが、相手方から、本件不動産については菅野正輔の賃借権が設定され、同人から転借している者もいて、競売価格が低廉であるため、右賃貸借契約を解除して適正な競売価格を実現するという理由で再競売期日の延期申請があつたので、原裁判所は右再競売期日の指定を取り消した。その後相手方は、福島地方裁判所に対し菅野正輔らを相手に本件不動産の明渡を求める訴を提起し(同裁判所同年(ワ)第二二三号土地建物明渡等請求事件)、昭和四八年九月二一日、債務者と菅野正輔間の本件不動産の賃貸借契約を解除する旨の判決を得、右事件の控訴審(仙台高等裁判所昭和四八年(ネ)第二八八号、第二九〇号、第三〇五号)でも、昭和五二年一月三一日、同趣旨の判決を得て、右判決は同年二月一六日確定した。そこで相手方があらためて再競売期日の指定を求めたので、原裁判所が再競売期日を昭和五三年二月一七日午前一〇時と指定したところ、抗告人が、右期日の二日前である同月一五日、前示競買代金のうち既に保証金として納付していた金九〇万円を除く金七八三万二〇〇〇円と利息および手続費用合計金一〇四〇万二七五一円を支払つたので、原裁判所はこれを受領し、同日本件取消決定をした。

そこで、判断するに、競売法第三二条が準用する民事訴訟法第六八八条四項によると、競買代金を支払わなかつた競落人も、再競売期日の三日前まで競買代金と、代金支払期日から代金支払までの利息および手続の費用を支払うことによつて競買不動産の所有権を取得する権利を有することとされている。その理由は、競落人に右のような代金支払を許しても、再競売による競売価格の低落を防ぐ実益こそあれ、利害関係人の損失を招くおそれはなく、また再競売の実施によつて競落人が同法第六八八条五項および六項所定の不利益を受けることを回避することもできるからである。したがつて、このような合理性が認められる限り、三日前を過ぎた代金等の支払を受領して再競売手続を取り消すことも許されると解する余地があるが、逆に、代金支払期日から代金等の支払時までに相当の期間を経過し、その間地価の高騰などがあつて、再競売における競売物件の再評価額が競落代金に利息を加えたものよりはるかに高額になることが予想され、従前の競落代金で競買物件の取得を許すとすれば、債務者および利害関係人の利益を著しく害し、競売手続の公正を害する結果を招来するおそれがある場合にまで競落人の前示権利を認めることは相当でないというべきである。

本件においては、競落許可決定による代金支払期日からあらたに指定された再競売期日まですでに約六年の長年月が経過し、この間地価が著しく高騰していることは公知の事実であることに加えて、本件不動産については、競落許可決定当時存在した賃貸借契約が民法第三九五条但書によつて解除され、賃貸借の負担のないものになつているのであるから、もし再競売手続において再評価をした場合(本件のような場合は、再評価をなした上最低競売価額を定めるのが妥当な措置である)には、最低競売価格が競落許可決定当時と比べて高額になり、従前の競買代金に代金支払時までの利息を加算した金額をはるかに超えるにいたることは容易に想定されるというべきであるから、このような場合に、抗告人に従前の競買代金を支払うことによつて本件不動産の所有権を取得する権利を認めることは、債務者その他利害関係人の権利を著しく害し、ひいて競売手続の公正を害する結果を招来するもので許されないと解するのが相当である。

したがつて、抗告人がした本件競買代金、利息、手続費用の支払は不適法のものというべく、そのことによつて本件不動産の所有権が抗告人に移転したと解することはできないから、原裁判所がした本件取消決定は違法であり取り消されるべきものである。

よつてこれと同趣旨にでた原決定は正当で本件抗告は理由がないのでこれを棄却すべく、抗告費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(兼築義春 守屋克彦 田口祐三)

抗告の理由<省略>

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